ストーカーもなにも

 おれはおれの言葉のせいで彼女が元カレのところを飛び出してしまって貧しい食卓の写真を上げているのを見ておれのせいだと罪悪感を感じてコメなど買って通ってそのうちうちにきてプレステ4でもやれよとなってそれっきり彼女が住み着いて彼女に何かあったらおれの責任だと義務感で彼女をノベルジャムに送り出したり欲しがる着物を買ったり買い物してもらってるお礼としてそのたびに一万円渡すなどしていた。彼女ははじめは帰りたがらなかった。一人だと餓死してしまうみたいなことをいっていた。けれどもケースワーカーさんから居住実態がないんじゃないかと電話がかかって自室に帰ると、それっきり今度は冷たい態度をとるようになった。僕は二人が恥ずかしくなく結婚できるよう君も仕事についてほしいと希望したが、ちょうどコロナの流行り始めのころで、すぐに彼女の就職活動はできなくなった。それから互いに会う機会はどんどん減った。緊急事態宣言が発令されたりした時期もあった。彼女はそのころにはオンラインサロンにハマって多くのメンバーらと動画番組などを作ったりするようになっていった。似たような境遇の男女らにインタビューする機会などあったらしい。そのなかでより価値観や人生観、感性の近い仲間と出会ったのだろう。そうして、おれよりもよい相手を見つけて気持ちが変わったのだろう。

本当のことをいっちゃいかんのか

 嘘をつかなきゃいけないのか。彼女はおれのタイプじゃなかった。リングの貞子みたいなヤバい貧乏神だと第一印象で感じてもう逃げ出したかった。化粧もしないでわけのわからない眼窩の落ちくぼんだ死神みたいな恰好で出てきて、映画を見終わったら公園でキスを迫ってきた。おれはなんとか帰って欲しかったのに、彼女は舌なめずりして頑なに帰らなかった。ぜんぶおれが断れない性格だから、だからあんな寄生獣に食い物にされたんだと今は思う。

ほんとひどい奴だった

 断れない性格なのを利用され居つかれたあげくさんざ部屋を滅茶苦茶にされ、今も何がどこにいったのかさっぱりわからない。彼女が住み着いて初日に仕事から帰ってそれだった。あの時ブチ切れて追い出して終わりにすればよかったのだ。おれはアスペルガー気質だとわかっていてどうしてわざとあんな逆なでができるのだろう。

別におれだって、何の不満もないわけじゃなかった

 片親で中卒でニート甲状腺咽頭ガン治療の後遺症で仕事にもつけない借金まみれの生活保護受給者を生涯唯一の恋人として両親に紹介したり祖父に紹介したりした。けれど、親せきにも友人にも、自慢できない。家族親戚、みんな立派な家庭を気づいているなかで、それでもおれは、自慢できないなりにも幸せに感じてはいたけれど、それすらもおれには残らない。何も不幸になりたくて彼女を選んだわけではないのに。

むかし

 地元の友人の元カノ(京都生まれの関西人)となんど会う約束をしてもその当日になって母親が病気になったと言って来なかった。飲み屋のねーさんが言うには、それは初めから来る気ないんよと言っていた。京都人というのはそういう言い方をする。帰ってほしい時に上がっていけよという。おれはただ騙されてるような気がして、電話口で激怒してそれっきりである。

 今回の彼女は、その話を聞いて自分はそういう優しい嘘はつけないと言っていた。ようするに無下に断って傷つかないように口先だけで了承して、後から急にやむを得ない事情で行けなくなったというのが、彼女らの考える優しい嘘なのだろう。

 でもどうだろう。最後の最後に明らかになったのは、やっぱりみんな口先だけで、優しさの欠片もないんだなってことじゃないだろうか。彼女らは相手を傷つけないようにウソをつくどころか、相手が一番傷つく騙し方をしているだけじゃないか。

死にたい

 ただひたすら死にたい。愛する人に思いを伝えられない悲劇ならいくらでも読んだ。愛する人にどれだけ思いを伝えても嫌われ、会いたくない、嫌いだと言われる。そんなこんなで、片思いのまま終わったり、失恋したり、破局したりの繰り返しだった。苦しいこと悲しいことの多い人生だった。