福島第一原発事故を検証する

福島第一原発事故を検証する 人災はどのようにしておきたか

福島第一原発事故を検証する 人災はどのようにしておきたか

福島原発事故については事件後色々な議論があったと思う。
第五福竜丸事件以後、アメリカの核実験に対する世論を抑えるために
積極的に日本の世論を動かし、反米世論を封じるために「資源小国日本における原子力平和利用」を
自身が握るマスコミをつかって喧伝した、正力松太郎などによる政治的な動き。
原子力工学を教える大学が限定されている為、技術者や研究者が皆顔なじみであり、
いわゆる原子力ムラなる暗黙のサークルの中で、自分たちが学んできた技術を日本で活かせる
唯一の手段である原発開発を、徹底的に推進してきたこと。
あるいは高速増殖炉もんじゅ保有することで、必要になれば即座に核兵器に転用できる
高濃度のプルトニウム技術を持ち、潜在的保有国としての外交力に利用したいという国防上の思惑。
そうした原子力発電にかかわる政治的な問題そのものを論じることは、
そもそも原子力が今必要なのかどうかを考える上では、必要なことかもしれない。
しかし技術的には、福島第一原発事故の発生メカニズムの検証から、具体的な教訓を得て
他に活かすことのほうが、現実的には重要なことなのではないか。
本書はそういう政治的な議論を抜きにした、発生メカニズムを検証した本である。


米国の原子炉メーカーが開発した軽水炉(Light Water Reactor; LWR)には二つ型がある。


  ・加圧水型原子炉(Pressurized Water Reactor; PWR):オークリッジ国立研究所ウェスチングハウス社が共同開発
  ・沸騰水形原子炉(Boiling Water Reactor; BWR):アルゴンヌ国立研究所、ゼネラル・エレクトリック社が共同開発


東京電力は沸騰水形原子炉を17基保有している。ちなみにこの型はGEの設計エンジニアによって
欠陥が指摘されていた。非常停止の際に挿入する制御棒が原子炉の底部にあるために、炉心の下部に穴があり、
炉心溶融の際に核燃料が漏れ出すリスクが制御棒を上から差し入れる加圧水型原子炉よりも高くなると言われていた。
軽水炉は炉心の発熱と冷却のバランスが重要であり、それが狂うと燃料棒が溶け出す。
それにそなえて緊急時には制御棒で核分裂反応を止め、冷却を行うための停電時でも給電可能な
非常用ディーゼル発電機(Emergency Diesel Generator)から二系統の
緊急炉心冷却装置(Emergency Core Cooling System; ECCS)が設置されていた。
これらが機能を喪失すれば、確実にメルトダウンは起こる。福島原発では実際に非常用ディーゼル発電機が起動しなかった。
軽水炉でもっともリスクが高いのは冷却材喪失事故(Loss of Coolant Accident; LOCA)と反応度事故(Reactivity Accident)だが、
現実的には配管破裂を起因事象とする冷却材喪失事故がもっとも起こりやすいそうだ。
いずれにしても、いったん起動した発電機が一時間後にトリップ(故障)して冷却機能が失われ、
冷却機能をいわば手動で補うために東電は注水を行った。
しかし最近では地震の翌日にはメルトダウンが始まっていたという情報が開示されているように、
それは十分な冷却機能を果たせなかった。結果的に、溶融し始めた燃料棒が、燃料棒の被覆管のジルコニウムを溶かし、
それが蒸発していく冷却水の水蒸気と酸化反応を起こした結果、大量の水素が発生した。
軽い気体である水素が原子炉から建屋上部に集まって、一定割合で酸素と混合した結果水素爆発が起きる。
建屋の屋根を吹き飛ばして鉄骨だけになるほどの水素爆発を起こすほどの量の水素は、炉心の燃料棒だけでなく
使用済み燃料プールの燃料棒が溶融するような現象がなければ発生しなかっただろう。
地震直後から停電、ガソリン不足、買占めなどのパニックが起こった内政状態を見てか、政府はつかんでいたはずの情報を
あまり積極的には開示してこなかった。結果として、パニックは起こらなかった反面、政府への不信感は強烈なものに
なったように思う。


米国では1970代のはじめに原子力委員会によって原子炉安全性研究が行われ、
NASA(米航空宇宙局)で開発されたイベントツリー(事象木)やフォールトツリー(失敗木)のような
ロジックツリーの手法でシステム分析を行い、炉心溶融にいたるプロセスをすべて洗い出して
あらゆる安全系それぞれが機能喪失する可能性を計算した上での炉心溶融にいたる確立の算定を行っている。
あるいは加圧水型原子炉(PWR)や沸騰水形原子炉(BWR)を用いて最悪の事故を想定した場合の土壌汚染や被爆、物損の
影響を調査するプロジェクトを3年がかりで行い、
米原子力委員会研究報告書WASH-1400(Reactor Safety Study, 1975)
を纏めている。これはいわゆる「ラムッセン報告」として有名なもので、
原発事故の確率の低さをうたったものであるかのように捉えられているが、実際には急性死亡が数千人、
晩発性ガンが数万人、土壌汚染、物損により数兆円の損害がでるという数字を出している。
1990年には、より大規模な原発における災害をより高度な解析技術で分析した、
米原子力規制委員会研究報告書NUREG-1150(Severe Accident Risks: An Assessment for Five U.S. Nuclear Power Plants, 1990)
をまとめている。


実際には福島第一原発でおきた連鎖的大事故の進行と環境への放射性物質放出のプロセス、土壌汚染、住民被爆、損害額
などは、この研究報告書の想定の範囲内だった。


その上で、本書は

福島第一原発がもっとも被害が大きかった一番の理由は、いままで安全審査や原子力業界が、
あまり深く検討してこなかったこと、つまり津波だった。今回の地震では、津波が「想定」よりもはるかに大きかった
ために、致命的な問題をおこしたのである。
原子力設置許可申請書」を基に、国の安全審査では、津波についても地震と同じく対策をほどこすことが基本に
なっている。ただ、筆者がこれまでの原子力関係の文献を読んだり、日本国内での議論、『日本原子力学会誌』
などを通して問題提起や議論に接した限りでは、津波についての議論はほとんどなかった。

軽水炉の安全審査では、炉心溶融は想定されていない。そのことは、伊方行政訴訟において当時の原子力安全委員会委員長
内田秀雄氏(元東大教授)が明確に明言している。冷却材喪失事故などの深刻な事故が発生しても、
緊急炉心冷却装置が的確に作動し、炉心は安全に冷却されるとしている。
内田氏は、被爆評価における大量の放射性物質の環境への放出は、炉心は溶融しないが、公衆被爆の社会的リスク
を評価するために、ただ仮定しているだけだと証言している。

日本では安全審査が実際にはまったく機能していなかったことを指摘している。
技術的には非常用発電機があったとしても、それも本当のリスクを想定して設置されているわけではなく
仮定のリスクへの対応として設置されている。本当の災害時に、十分に機能を果たすかと言う厳密な安全性審査は
行われてこなかった。

炉心溶融は工学的には起こりうる。しかし、現実的におこりうるとすると、原発を受け入れる地方自治体は、
なくなってしまう。そこで、工学的論理ではなく、政治的論理によって、軽水炉安全性の論理がくみ上げられているのである。

今の日本の安全審査制度は、効果的に機能しておらず、改善しなければならない。
独立性と公平性を維持するために、原子力安全委員会経産省原子力安全・保安院原子力機構軽水炉安全性研究部門
を統合し、米原子力規制委員会なみのプロフェッショナル・エンジニア制度のもとに、
新安全審査機構の設立を提案する。筆者は、四半世紀前、原子力安全解析所で四年間、安全審査の弊害を体験してきた。
昔も今も変わっていない。いまのような申請側と審査側のなれあい的八百長体質による空洞化は、百害あって一利なし
であり、即刻、断ち切るべきである。地震研究者はいまの安全審査指針の考え方が間違っていることを主張しなければ
ならない。いまの地震学では地震国の日本で保守的な耐震・津波対策が不可能なことを証言すべきである。

本論に、私は同感した。
結局のところ、非常用発電機があるなら、それは災害が来たとき本体と一緒に壊れない最適な設置方法を設計しなければ意味が無い。
そうした問題が起こりえることをシミュレーションで指摘し、問題点が改善されなければ原発を設置させない。
それが安全審査制度のはたすべき役割であるはずだ。地震が起きて壊れました、審査はしていたけれど、想定外でした、
というのであれば最低限、審査基準をもっと厳しい条件に見直して、同じことが起きたとき同じような事故をおこすような
設計では設置を却下するようにすべきだ。
そして既存の原発でその審査基準を満たさないものは、改築するか、廃炉にしなければならない。
安全性を審査すると言う役割に求められているのは、安全性の正確な査定・チェック・不適格な設計の却下機能だ。
その役割が機能しなければ、安全な立地条件も、老朽化した原発廃炉の要請も行われないまま、
絶えず事故を起こす老朽化した原子炉がなにもかわらず黙認され稼動し続けてしまうことになる。


参考:
根拠のない放射線対策チラシが配られていたようです
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110824/1314173797
日本の原発推進派が脱原発に対して対案を出せというのは逆切れというしかない
http://d.hatena.ne.jp/logic_master/20110827/1314410537
ミュンヘン環境研究所およびドイツ連邦放射線防護庁について
http://d.hatena.ne.jp/eisberg/20110805/1312531818