その39:サイコキネティック痴漢技術総合研究所


 α版というのは、そのトリプルA級の大手ゲーム会社の中では事業部長が初めてゲームに触れてプロジェクトを解散するか続行するかを決めるタイミングなのだった。
事業部長とここでいっているのは、ファミ通なりニコニコ動画なりではプロデューサーとして有名人になっているタレント化した人々である。
彼らはメディア上は現場に口をだしまくって自分がゲームを作っているという顔をするのだが実際にはほとんど席にいることはないし現場にくることもない。
α版のタイミングで初めてタイトルを見る。それまでは現場の仕事なのだ。
その有名プロデューサーの上に、エグゼクティヴプロデューサーがいる。スタッフロールの最初か最後にでかでかと表示される名前、ゲームを作った本人であるかに思われる
その名前は、実は単純に広報上の理由で全部のタイトルに名前をいれることにとなっているだけだった。ときどき記者会見で答えるために情報を要求してくるどこの部屋にいるか社内でも誰も分からない謎の人物だと理解されていた。エレベーターでどこか最上階に近いところに上り下りしている。
 トリプルA級ともなると、起動時のブランドロゴが画面のどの座標にでなければならないかというルールが存在する。そのロゴを出すためには申請が必要で、
それを審査するためだけに存在する部署さえある。


 そうはいっても、社外からはカリスマ、社内からは謎の人物と思われているそういう人たちですら、昔はその当時の技術の最先鋭の使い手として現場で活躍した叩き上げだった。
単なる遊びでも単なる芸術でもない、幅広い人脈を互いにメンテし合って、生きている。互いが互いを期待し合うそういう戦場からもう降りられない。
彼らは彼らの世界をみているようだった。


 だが、総一郎も怜も、まだそういうことには興味がなかった。
 とにかく、プロジェクトがポシャると、一見社外的には上の者が責任をかぶっているように見えながら、何かよくわからぬ空気によって
失敗の当事者が追い詰められる。説明のつかない人事異動がはじまるのだ。10年以上開発が長引いている伝説の謎のタイトルに放り込まれ、永遠に続くR&Dを毎日毎日「ハイやり直し」となるかもしれない。会社を問わずそういうタイトルがある。発表だけされてリリースはされない。違うタイトル名になってリリースされる可能性だけ少しある。


 怜は叫び、叫び、そして立ち上がって九兵衛に何かよくわからないことを言って怒った。
ベテランの風間先輩が苦笑いして間にはいるものの、なだめきれないほど怜は何かが壊れて叫び続けた。
総一郎が怜との距離を取り始めた時期だったので、総一郎はやりきれない思いに駆られていた。