その57:サイコキネティック痴漢技術総合研究所


 ある時、人事部でちょっとした騒ぎが起こっていた。
 オリンピック出場経験者が応募してきたという。
 リレハンメルオリンピックのゴールドメダリスト。メディアではコメンテーターとしての経験もある。ファン層を持ったその人物は、
自分が広告塔としても、メディアへのコネクションの斡旋においても重要な利益をもたらすことができると褐色の肌に、白すぎる歯を光らせ訴えていた。


 確かに、オリンピック出場のための競争の勝者であり、世界を舞台にした戦いのトップである彼は、
他に類を見ないセルフマネジメントノウハウと、能力を明らかに持っていることが証明されている。


 だが、社長は警戒していた。彼は本当に、指示を聞くのだろうか? チームとしてまわりに溶け込んでやっていけるのだろうか?
彼が望んでいるポジションは、役員席ではなかった。広報部の一ポジションだという。
 そして彼は出社した。
 広報部は、しばらくの間彼をチヤホヤ面倒をみた。だが、しばらくして、彼が実際の業務に関わるようになりはじめると様子が変わってきた。


 彼、こと立花圭司は、ハンマー投げの世界トップであり、きらめく白い歯で夜の世界でもスターであった。
その朝、オフィスはシーンとしていた。誰もが静かに朝のメールチェックや、終業後におこった出来事のフォローなどを行い、朝のミーティングを待つ。
立花圭司は、その静けさをやや気にしていた。みんな元気が足りないな、と彼は捉えたらしいのだった。
ミーティングで、彼は大声を張り上げた。
「元気ですかー!!!!」
 チームのメンバーは、眉をしかめてその大声をスルーしながら、圭司に一日分の指示を投げた。
圭司はおう!と答えて張り切った。
それはチームのメンバーから見れば、大した業務とは言えなかった。だが圭司は、自分はオリンピックスターで、周りは一般人なので
自分はデキるはずだと思って一人でそれをこなそうという構えであった。
午前中が過ぎ、静岡真紀が進捗を確認した際、圭司は「何も問題がない」と断言した。
しかし真紀の目には、進捗が何もないことが分かった。何かに引っかかって、仕事が進んでいないのだろうか。
だが、本人は「何も問題がない」と言っているのだから、一人でやりたいのだろう。助けを差し伸べる余地がなくなった。


 昼休みとなって、一部のメンバーは切りのいいところまで仕事を進めると、案件のメンバー達と連れ立って昼飯を取った。
圭司は、自分が飯に誘われるだろう、まわりはみな自分のファンだ、と考えて待っていた。だが、そのまま昼休みが終わり、
圭司は顔を真っ赤にして震えているのだった。


 夕方になり、結局、圭司は与えられた仕事を何もこなせていないことが明らかになった。
「教えてくれないからだ!」と圭司は言った。「ここはブラック企業だ!」


 翌日、圭司の姿は消えた。
 どういう能力を持った、どんな人材が生き残れるのか。
それは難しい問題なのだった。