その69:サイコキネティック痴漢技術総合研究所


 その扉を開けた瞬間、工藤怜の耳は、常ならざる音を聞き分けた。
超音波的な周期を持った何かしらのノイズだ。
 辺りは闇に包まれ、暗視ゴーグルは黒い闇の中に何かが緑色に光っているのを捉える。地下牢に似た景色をかすかに捉えていた。
その奥に果てしない黒い奥行がある。天井も床もみえない。
すでに怜は、重力を感じない事に気がついた。


 何かがそこには広がっている。その何かは、遠い記憶の中の別の場所につながっている気がして、怜は歩を進めた。
怜、待つんだ、慎重になれ。


 総一郎の声が届かなくなっている。無音に近い何かがそれをかき消してしまったのだろうか。
怜の心には、夕暮れ時の貸し倉庫の裏側の錆びついた非常階段が見えた。それはぐるぐると螺旋を描きながら、影から影をつないでいた。
その時怜の心には孤独が去来したのだった。風を感じた。その風が怜の思いをむなしい砂漠へと連れていくかのようだ。
砂漠はノイズの砂嵐を竜巻のように巻き上げながら、ゲシュタルト崩壊の次元へと精神を蝕んでいく。
 見たこともない青い鳥が、木の上に止まってこちらを睨んでいる。
鳥はまるでガラパゴスに生息する生き物の一種のように、毒々しい色で何事かの警告を発している。
横殴りの強い風が叩きつけて、地面から塔がせり出していった。塔は大木のように枝分かれしながら、棘のように天空を目指して広がっていく。
怜は急に予感を感じて後ずさった。
 地面がうなっているのだ。
そしてそのうなりはやがて強いうねりとなって大地を分断する。


 戻れ、その場所は何かがおかしいと総一郎が叫んでいる。しかし、入口がすでに消滅していた。
足場のない空間を怜は落下している。その無重力の自由落下の中に、迷宮が広がっている。
その迷宮はなぜか、怜の古い記憶の中のひとつの場所を思い起こさせた。


 自分はこの場所を知っているのだ。
工藤怜は、その場所を知っているのだ。