その106:サイコキネティック痴漢技術総合研究所

 新年度が始まり、大勢の新卒者達が入社してきて研修を受けていた。
 どこかしら先輩らよりももっと大人びて見えるようなその若者たち。だが、誰もがみな昔はそう見られていたものだった。
ホテルのバーを貸し切って行われたその懇親会は、会場がすし詰めすぎて満員電車の車内を思わせる様相を呈していた。


 スペッキヲは、正直なところ、新卒者たちに興味があったわけではなかった。
こういう場こそが、むしろ仕事なのだと考えていた。酔っぱらったら、誰よりも酔っぱらいらしい姿をさらけ出す。
気を使われずに生きるには、枠をはみ出さないスタイルこそが求められる。


 コミュニケーションと言っても、実際の中身は何かの愚痴なり陰口ばかりということが往々にしてある。
恐らくそういう話題は、一番、共有されやすい話題なのかもしれない。しかし、
そんな不平不満を一生懸命に垂れ流す姿は、みじめなものだとスペッキヲには思えた。
周り中が敵だと思って生きるのは、都合のいい言い訳なのかもしれない。そういう考え方では、苦しみが生まれる。
 周りを信頼すること、リスペクトし合うことが、コミュニケーションの目的であるべきだと彼は思っていた。
しかしそういう彼の考え方は、どことなく何か裏があるような、企みごとを含んでいるような態度にさせ、
周囲にうまく意図が伝わらない。


 彼はジャックダニエルを続けざまにあおり、先輩にくっついて新卒者の群れを襲った。
熱いような寒いような中年らしい熱弁をカマした。新卒者は熱心な目をして頷き、感銘を受けたような態度で握手を求めてきたが
そういう演技がうまい、新卒としての気に入られるスキルが高い優等生なのかもしれない。
いずれにしても、「君は優秀であるがゆえの悩みにぶち当たる、その時が来てもうろたえるな」とスペッキヲはドヤ顔で説教した。


 いよいよ場が混乱しはじめ、お偉い方の皆さんが狂気を放ち始め、若者たちは合コンの体制へと移行し始める。


 やれやれ、男と女の時間か、とスペッキヲは思った。
小便をし、帰ろうとすると先輩に捕まり、夜の街へとくっついていくことにした。