その107:サイコキネティック痴漢技術総合研究所


 夜の歓楽街を徘徊しながら(それはほとんど道に迷っているに等しく思われた)先輩から聞かされた話が色々あったようだが、
酔っていたせいかその話はほとんど思い出せない。ただ、先輩も、あるいはほかのメンバーも、みなリアルを楽しんでよろしくやっているのだなと
いう感じだけ残った。


 スペッキヲはどういうわけだかそういうものにまるで縁がなかった。もちろん、もう少し若いころは色々なチャレンジをし、
さまざまなものに飛び込んで熱くなってはいた。だが、それは初めから一つの目的の為に行われた営為でしかなかった。
”それはつまらない”ということを確認するために自分で体験しようとしただけでしかなかった。
 思い残すことがないように、未練ももたないように、身をもって”つまらない”ことを確認していく営為でしかなかった。


 そうやって彼を突き動かすものは欲望ではなくなっていった。
ただひたすら、知識欲だけが、あくなき知識欲だけがスペッキヲをデータの世界へと誘っていく。
そのほかのすべてがつまらない、それを彼はすでに割り切ってしまったのだ。
 そしてそれは彼にとっては正しいことだったのかもしれない。彼の備えた様々な特性が、彼を誘っている彼のための桃源郷
それがデータの海原にだけ存在したのだ。


 倉橋総一郎の理論によれば、あらゆるものはデータと形式へと還元可能なのだとされる。
それが意味するのはデータの中の酒池肉林だろうか? そうではない。そこには構造が生み出す力学がある。
折り重なった美の階層、その相互関係、連鎖反応。シグナルがパースされ、やがて訪れる永遠のハイバネーション
 アルコールに酔った頭は、すでに通信衛星と電波を送受信しはじめ、”彼の”ネットワークの深いトンネルを開いた。