その112:サイコキネティック痴漢技術総合研究所


 その時、唐突に”予感”があった。
 謎の小僧が、この1Fの部屋のベランダに干したブラジャーを盗みに来るという予感があったのだ。
ゆきは心配になり、コーヒーを入れながらもベランダを気にした。
一体、ブラジャーの何がそんなに興味をそそるのかわからない。それはただの、布切れなのだ。
テレビをつけると、バラエティ番組が放送されていた。
 自分はどうかしているのかもしれない。世の中には干したブラジャーが盗まれる気がして一日中ベランダを見張る人間なんかいないのだ。
食パンを切り分け、作っておいた卵焼きをレタスとベーコンで閉じ、電子レンジにいれる。


 その時、キーンという耳鳴りがした。
どこから音はするのだろう。周囲を見回すと、外のほうからかもしれなかった。カーテンを開ける。すると、
自転車を急発進する小僧が見えた。ブラジャーはある。しかし、パンティが消えていた。
 ちょっと待って、という声を発するのをためらった。パンティを盗まれるなんて、人に知られるのも恥ずかしい。そのままベランダを超えて追いかければよかったものを
ゆきは正面から靴を履いて追いかけた。


 どこにいったのだろう。ベランダの外は駐車場になっていて、ゴミ捨て場を回り込むか狭い通路を通って表通りのほうにでる道しかない。
先回りすると、自転車は倒れていた。どこかに隠れているのだろうか?
 そう思うと、急に不安になった。どうして私のパンティを盗んだん? と聞かれたら小僧はつらい気持ちになるのだろうか?
よくわからない。でも、だめなものは、だめなんだと思う。
自動販売機の裏から物音がした。ゆきはそこに小僧が隠れているのを見つけた。
出ておいでよ、どうしてそんなもの盗るん、とゆきは言った。小僧は顔を背けていた。服のすそをつかみ、外に引っ張り出した。
つかんでいたパンティは、自販機の裏のカビのようなものがこびりついて黒く汚れてしまっている。それはどうでもいい。また洗えばいい。
「こんなことしたら、だめでしょ?」とゆきはパンティを取り上げた。
 小僧は、目を伏せ、何も聞こえないような顔をしていた。ただ黙っていれば、こちらの怒りが収まって、帰れるのかもしれないという態度だ。
 どうしたらいいんだろう、どうすればこの子に伝わるんだろう。ゆきは心細い気持ちになった。
ただ、ここで知らない子を叱っていても、はた目にはヘンに見える。警察につれていくのも、大げさだ。ゆきは小僧の手を引いて、部屋に戻った。
そこで話をして、分かってもらおうと思った。