絶不調

 自分で自分をコントロールすることさえもままならない。

 そしてわたしには分からなかった。

 煩悩こそが悪なのであれば
人が悪に溺れてもがくことを利用して社会の各種労働が編成され、そして
労働者たちの欲望を煽ることで社会はますます栄華を咲き乱れさせているのは何故か。

 貨幣は人が欲望を叶えるために使われている切符だった。
社会の栄華が貨幣の流通で測られるのであれば、より悪に満ちた社会ほど
繁栄した社会だということ、それ以上でも以下でもない。

 輪廻の根幹にあるのは、
人が欲を禁じきれずに動物的に子を成していくことであるように思われる。

 宗教者たちは、そうしたものから解脱することをこそ望ましく思っていたのではないのか。
新しい世代にまた同じ苦しみを与える事の繰り返しを
断ち切ってまるで生きたように死に、死んだように生きるために。

 すべては移ろい行く。
あれこれこだわったり、執着したりすることは
どこかでいつもばかばかしいことだった。

 形あるものは何れ滅び去る。

 夫婦はいずれ死に別れ、どちらかに先立たれる運命を背負って出会っている。

 人は地上が地獄であることに早くから気が付いていた。
だからこそ人は
巨塔を築いて地位のあるものほど空に近い場所に過ごすことを望んだ。
あるいは、東洋においては、風水の魔法陣の中心に過ごすことを望んだ。

 それは地上が
目の前にエサをぶら下げられた馬車馬のような労働者たちの、欲望を動力に駆動され
悪や抜け駆けを推奨しながら、無限の闘争を繰り広げる人々の
血みどろの共食いの地獄であることを
常に課された呪いの地であることを、恐れてのことだろうか。
 地上の悲鳴に耳を傾けることなく、図形を転がし、数字をつけかえることで、
人々の命運を左右する特権者たちの、その楽園を、血しぶきを噴き上げる労働者たちの血と汗が潤している。
感謝でも尊敬でもなく、欲望に駆り立てられた労働者たちの血だまりと汗飛沫が。