女性が怖いと感じるひとつのきっかけ


 それは中学時代の事で、僕はたまたま親戚の子と同学年でなんと同じクラスになってしまったことがあった。
彼女の方は、たぶんなんとも思っていないのかもしれないが
ほんの少しだけ早く生まれている彼女は成長の遅い僕とは違っていつもずっと先に大人になっていくようだった。


 幼いころに何度か叱られたような記憶があり、僕らの間の上下関係はそういうものだったといえばそういうものだった。
ある日の給食の時間に、クラスの美少年が彼女を見つめているような気がし、僕は得意に思って彼女と自分が親戚だと話したところ
突然彼女が激怒して、短く大声で「そんなこと関係ないでしょ!!」と叫んだのを覚えている。


 それは確かに、その通りだった。しかし何かあの頃から、僕は彼女も、そしてあらゆる女性も、怖くて理解できないと思うようになった。
彼女は美人なので既に結婚し、順風満帆に暮らしている。結婚式の披露宴か何かのナレーションによれば、
彼女は寂しがり屋だという事だった。私は彼女が寂しがり屋だと、その時になってもまだ信じられなかった。そんな姿が想像もつかなかった。


 僕にとって女性というのは、男性よりもはるかに強くて怖い存在のように未だに思えてならない。
その彼女の弟の結婚式で、子供の頃、彼女以上に怖くてしかしあこがれも抱いていた彼等のお母様が、テーブルに来て僕は緊張したけれど
想像もしていなかった優しい言葉をかけてくれて、自分の中にすっかり出来上がっていた怖いイメージがひっくり返った。


 僕という人間はずっと彼等と比較され、常に劣った存在としての人生を送り続けているという自覚だったけれど、
いつのまにか氷壁のような壁は、きっと溶けてなくなっていたのかもしれないとその時、恐る恐る思えた。


 それに匹敵するぐらい衝撃的だったのが、高校生の頃、ラブレターを書いたことのある相手と交差点で二人きりになりそうになった時、
「さようなら」と言った私に対して彼女が「挨拶なんてせんでええから!!」と激怒したことだった。
 その時私は
「そんなこと関係ないでしょ!!」と叫ばれた時と同じぐらいショックを受け、
 自分の想像の中で繰り返していたその人との色々な会話の妄想を頑なに守ろうと、彼女に目も合わせず自転車をこぎつづけてその場から逃げていった。


 すっかり大人になった今でも、あの時と同じような事は起こる。
おはようございます、の声に、僕が返答するのが嫌だと言われたことを思い出す。


 彼女らは皆、同じことを言っているのだと思う。
”お前なんか、眼中にねーんだよ雑魚! 勘違いすんな”と言っているのだと思う。自分が相変わらず、そういう風にしか思われない存在だという事を
つまり最近また思い知った。自分が成長していないせいかもしれない。


 そういう雑魚にすぎない僕にとって、女性というのは常に、崇拝するか、恐れを抱くことぐらいしか許されないようなはるか空の彼方の存在であり続けていた。
そんな風に育った僕には、やはり
か弱い心を持った美少女というものが実在するとは思えない。実在するのは、オスみたいな性格の美女と、卑しく女々しい性格の男たちだけのように、思えてならない。