誰も知らない何かが、人の人生を翻弄していく



 誰も知らない何かにつつまれて僕らは生まれる。
 それは海に似た何かで、暖かに揺らぎながら流れる何かだった。言葉も歴史も生まれる前からずっとそこで
寄せては引いて繰り返す波だった。


 そのことに名前をつけたとき、人はその名前が本当は何を意味しているのかを忘れてしまった。


 忘れられてしまった何かを埋め合わせるために人は、色や形や重さや、手触りや歯ごたえやリズムやハーモニーや、
あるいは輝きやクールや、何か他の色々なものを積み重ねていった。


 急に波が始まって、
 すべてがただのまがいものだった事に気がついてしまう。
僕らは波を追いかけて、今までの日常を全部投げ打って、かつて僕らを包んでいた暖かな揺らぎに向かって無我夢中で飛び込んでいく。
その香り、その温もり、渇きがキミをそうさせる。そうなるはずだったキミに、戻るために。