言いたいことなど何もないその2


 言いたいことなど何もない状態で書くと、逆に非常に書きやすい事に気がついた私は、タバコを一服してもう少し書いてみるかと思い立ったのだった。
タバコを吸うと言っても、今はやりの電子タバコではないし、パソコンの間でタバコをふかしているわけでもない。キッチンで換気扇を回して吸っているのだ。
私はむかしからタバコの灰が非常に怖い。喫煙者なのに部屋には灰皿もない。空き缶に灰を落として吸い殻を捨てている。そういう人物を小説に描いたことが
あるがあの部分はまさに自分だと言う気がする。といっても、むかしからタバコの灰が苦手だったわけではないが、吸うよりも少し前から苦手であったことは
記憶している。プレイステーションのソフトが、CD-ROMになったことと、自分の中では関係がある。幼かったあの頃、私はどうしてもCD-ROMでゲームが遊べる
ことに納得がいかなかった。CD-ROMはレコードのように、あるいはカセットテープのように一方向に再生されるはずだという偏見を持っていたのだ。画面を行き来したり
自由自在に動き回るゲームの世界を、CD-ROMの中に封じ込めることなどできるはずがない……と思って、ほとんど恐れを抱いていた。CD-ROMの裏面に付着する
ホコリや灰を徹底的に排除しなければ、魔力が失われて夢から覚めてしまうかもしれない……とでも思ったかのようだった。プレイステーションにはヨコ面辺りに
排熱の為の通気口が無数に空いていた為、そこからホコリや灰が入り込むこともまた同時に恐れていた。そうならない為にはそもそもそれを扱う自分の手に
ホコリや灰が一切付着していない状態でなければならないと思うようになっていったわけだ。
 だがそうなる前まで、つまりゲームソフトがカートリッジであった時代には、私の中ではそういう違和感はなかったようだ。ドッジボールをしていてボールが
汚染された河川に転がり込んだりすれば、ためらうことなく重油の中を泳ぎながらどこか流れにひっかかっているボールを捕まえて岸に戻ってくる。そうすると
全身がドブ川の色に染まって、水草がまとわりついた状態で這い上がってくることになる。それでもあの頃は、それをまったく気にしていなかった。家族の方が
それを気にしていたかもしれないぐらい無頓着であったものであったものだった。何はともあれ、あの頃必死に追い回していた昆虫の類があるときから恐ろしく思えてきた。
知らない間に寝返りをうったら背中でつぶしているかもしれない。蝶や蛾の類は羽がバラバラになり、粉末に近くなる。あの鱗粉にはしばしば毒がある。
まあこれも、昔は自分から毛虫やハチを素手で捕まえて自分から刺されたりしていたにもかかわらずの、潔癖ぶりだ。とにかく彼らは声も出さずにいつのまにか死んでしまう
ので近くにいてほしくないのだ。コンピュータの世界でバグという言葉はそもそもああいう虫が電気回路に入り込んで焼け死ぬことが原因で装置が壊れた事が起源だと言うから
こういう感受性は、コンピュータの世界ではそんなに物珍しいものでもないのかもしれないと思う。
 ところで電子タバコは、臭いも残らず、灰もでないらしいと聞いているので、良さそうではある。しかし、私は実際にはタバコ好きで吸っているつもりはなく、
ただやめられないから吸っているだけなのだ。やめられないから吸っているだけのものに、さらに嗜好性のある投資をしようというモチベーションがどうしても起こらず
結局これまでもこれからも電子タバコには縁がないと思う。あんな馬鹿馬鹿しいものを使うくらいなら、灰皿の灰でもなんでも舐めていたほうがマシに思える。
電子タバコはほとんどファッションのようにある場所の喫煙所では流行っていて、タバコを吸わないお嬢さんまで、それがきっかけで電子タバコ喫煙者になったりしている。
そういうことも含めて、余計に嫌だなと私は思ったりした。