第一回 それでも小説を出したい会議に行ってみた

 NPO法人日本独立作家同盟さん主催の、「第1回 それでも小説を出したい会議」に行ってきた。
SFマガジン元編集長・今岡清さん、タレント本などを企画・編集されていた梶原秀夫さん、スポーツ漫画などの原作で知られる北沢未也さんら
紙の書籍で活躍されてきた方々が登壇していた。紙媒体で活躍していた方々が、どういう風にセルフパプリッシングをはじめるようになったのかということ、
そして紙で活躍されていた方々からは、今実際、電子書籍はどのように見えているのか、など色々な興味を覚える場であった。


 お三方は知名度もありファンもいて、自力でセルフ出版してもかなり有利に売れそうにはた目には思えるけれど、それでもやっぱり実際には
色々な挫折など感じておられるようであった。


 ただ、一方では紙での出版も当然かつてよりも厳しいのだそうである。むかしは新人は売れなくても三冊までは面倒を見ていた、とのことだけれども
今は新人はソフトカバー、売れなければ文庫にもならないというような状況になってきているそうだ。本屋に平積みされるのが宣伝効果が
高いと言うのはそのとおりではあるけれども、出版されても3000部とかでは、平積みされない形で終わってしまう。紙であれ電子書籍であれ、
やはりきびしい世界なのだというのが伝わってきた。


 電子書籍とは言っても、例えばAmazonのKDPだと、紙の本の体裁に近い物しか許されないのだけれども、梶原秀夫さんは、
本当は電子だからできるようになる色々な物語の作り方(お話の中であったのは自分のいる場所のデータに応じて別の物語になる本)などを考えていたそうである。
 紙と同じようなものをただ出すだけなら、紙でいいんじゃないか、という発言もあった。たしかに、紙の本の体裁に近づけることが品質の高さなのだ、
というような暗黙の価値観がなにかしらあるような気がし、それだと電子書籍にどのような可能性があっても、その可能性が開かれも試されもしないままで終わってしまうような
気が少しする。


 お三方は作り手・書き手としての立場だけでなく、読み手としてみたときの電子書籍への感触も話されていた。電子書籍の場合、電車の中で読む場合などは
紙よりも楽であったり、蔵書として溜め込んでも部屋が狭くならないなどお話もされていた。紙だとページを飛ばし読みするときに感覚的にページをガバッと
一気に割るように飛ばせるが、電子書籍だと直感的にそれがない、みたいな話や、いやいや検索がある、単語に触れると辞書がでて紙より便利だ、というような
話もあった。


 その他色々興味深いことを色々聞くことができた。


 例えば活版印刷の時代は、出版というのは今の出版社よりもはるかに多くの人々を巻き込む作業だったが、それが今の出版はそれにくらべて
少数でできるようになっており、その流れの中で、一人でコストゼロで出版できるセルフパプリッシングというのがやってきているというような
話も、なんとも興味深いわけである。


 そしてまた”ベストセラーというのは、普段買わない人が買うからベストセラーになるのだ”という話も、ハッとする言葉だった。確かにそうで、
いつもなら買わない人、今までの読者層の外側へと広がらなければ、ベストセラーに達するほどの売上にはならない。と同時にこの言葉からは、
普段買う人たち”だけ”に売れていてもベストセラーにはならないかもしれない、あるいは、普段買わない人たちがなぜ買ったのかを、普段買う人たちは理解できているだろうか、
などなど色々なことを同時に考えさせられもする。


 個人的に一番興味があったのは「拡散」というテーマだったのだけれども、そこについてはクチコミというのが一番重要になるのだというお話になっていた。
お三方は有名人なので、人脈も多いだろうし、何かを発信すればご自身影響力があり、他の影響力のある人にも拡散されるのだろうなと思う。
その点、なにもない私はどうだろうかというと、かなり絶望的な状況だと思わざるをえない。最近だとTVの影響力も落ちてきていてCMだけでは売れず、
CMは火をつけるだけであくまでもクチコミが重要なのだと語られていたが、絶望的ではあるけれどもやはりそれでもクチコミが重要なのだろうか。
というか恐らくはその話には、クチコミに乗りやすいような仕掛けの工夫、みたいなものが必要なのだろうなと思った。例えばゲームでいうと、プレイヤーがスクリーンショット
投稿することによってクチコミが起きていくであるとか、同人イラストを描いて投稿することによって大勢がそれをイイネと思って拡散していき、いつのまにかそれまで届くはずのなかったことろまで拡散し広がっていく
みたいなことがあるけれども、そういう仕掛けの工夫というのがあるかもしれない。


 じつをいうと私は、講演の前まで、次のようなことを予想していた。お三方は元紙媒体で活躍されていたとのことだけれども、それは遠い日の花火で、
今や紙では活躍の場がなくなって半ば落ち武者のようにセルパブに漂着したのだろう、そしてかつての栄光の日々を遠い目でみやるかのようにして
今の出版界隈がいかに腐っているかを滔々と聞かされるだけなのではないだろうか……と。しかしその予想はまったく外れていた。お三方の立ち位置はむしろ
"電子書籍によって例えば編集者とのやり取りに時間が奪われなくなり、少ない人数で家内制手工業のように出費も少なく自由にものを作れる"、
"作りたいと思って作ったものが、刷る必要もなく大勢に見せられるようになって面白くなった"、"出版社の側にとってもこれからは低予算でいろいろなことをやってくるだろうし面白くなった"、
というような立ち位置であるように思えた。そして前出のとおり、その流れは活版印刷から始まる大きな潮流からみると極めて自然な流れだという風に、話を伺った今、思えたわけである。


 という話もあるのだが、それよりもむしろ、電子書籍をやってみて色々興味を惹かれていた方々が実際に生身でその場に居合わせていて、しかもなんというか
皆さんなんとも全身から元気がみなぎってるかのようなタフな印象を受けたのが一番の驚きだった。なんというか自分みたいな人間ではとうていできないようなことを
されている方が多いので当然かもしれない。で、これが一番、今回自分が打ちのめされたことの一つかもしれない。