哀しいケムリ

 ケムリがでてくる。

 モクモクと。マンホールの蓋が開いて、そこからケムリがモクモクとでてくる。傍らに男の姿が見える。色褪せた黄色いビールケースを逆さまにしてその上に座ってうなだれながら紙巻きたばこをくわえた状態の、その男の鼻からもときおりケムリがでている。

 何もしていない、何も考えていない、と言った顔をしていた。低体温症からくる無関心な顔というやつだろうか。

 

「座れ」と男が、ゲップのような音で喋ったので驚いた。こいつは俺に何か言ってきたぞ。こんな風体でか。

 

「おまえは何もわかっちゃあいない。だからワイがおしえたる」

 そういうと男は、顔を上げた。その目は白濁し、切れ上がった唇の端にはきめ細かな気泡がこぼれていた。

 後ろの配管から蒸気が漏れて、プシューと言っていた。その男の話は何も覚えていない。ただ後ろの配管から蒸気が漏れ続けているのが気になっていた。