セクシャル・ハラヲの人生

 セクシャル・ハラヲを知っているか。
 彼は、純粋で、まっすぐな気立てのいい男だった。すんでいるアパートの大家さんのゴミ出しを手伝う男。迷子の子犬の飼い主を見つけた男。熊本地震の募金に500円玉を拠出した男。口数が少なく、引っ込み思案で、おどおどした彼は、タンポポの花を愛する暗く好感のもてる男だった。


 ある日、窓から校庭を見下ろし、今年もシクラメンの香りがよいなあと感じていた彼は、ふと校庭で泣いている女子を見つけた。
 彼は階段をまわって校庭に降り立つ。
「どうしたの?」
 しかし返事はなかった。破り捨てられたピンク色のレター。彼女のものだと彼は察する。
「どうか泣かないで、キミには僕がいる」


 風が吹いた。セクシャル・ハラヲの長髪が、風に広がりその髪に後光が透ける。ハラヲはゆっくりと手を差し出す。とても愛おしい、狂おしい愛にかすかに振るえながら。


「やめて! 離して! 近寄らないで!」


 悲鳴を聞きつけた体育教師・マンボ英二が駆けつけた時、少女は砂場に崩れ落ちるようにしゃがみこんで、胸元を隠すように震えて泣いていた。
「どうした! セクハラか!」


「そうなんです、この人、ヘンなんです!!」


 ハラヲは慄然として、慄いた。
「おいおまえ、なんでそんなことをしたんだ、ガマンできないのか、ガマンを!」
 なんだなんだ、ヤンヤヤンヤ。学生たちが一同を取り囲む。なに、セクハラ? あいつがか、やっぱりな、やりそうだと思ってたよ、初めから、知ってた。


「捕まえろ!」
 誰かが叫ぶ。
「ウワーッ!」
 ハラヲは、一目散に走った。走って走って、振り返るとそこに、アパートの大家さんが追いかけてきていた。
「おい、ハラヲーッ」


 何か嫌な予感を感じ、彼は逃げ出した。
 誰もかれもが、何かにワナワナとわなないているように、彼には思えた。


「少しでも変なところがあるやつは、みな犯罪者だ。全員つかまえて、閉じ込めてしまえ!」
 何か機関銃を乱射する音のようなものがあちこちから鳴り響くのを彼は確かに聞いた。虫取り網をふりまわしながら、子供たちがハラヲを捕まえようと追っかけてきた。