はやらない理想の男


 流行らない理想の男を知っているか。
 彼の中には、なにか理想があるのらしい。どうでもいい理想。しかしそうではなければならない理想。彼は神経症的にそれに執着する。現実はその理想に限りなく近づいていて欲しい、と彼は思う。哀しいけれど現実は彼の理想とは異なる。だから彼は、見て見ぬふりをして笑い続ける。彼の記憶には、消えてしまうものがある。それは理想とはかけ離れていた現実だ。彼は過去を振り返って思う。なにもかも素晴らしかったと言う。でも、そこにはいつも、何か大切なものが抜け落ちている。理想が叶えば、自分は満足できるのにと彼は思う。そしてそれが叶っているのだと彼は思う。その割には彼は、憂鬱げだった。自分は勝ち組なのだと頑なに信じて疑おうとしなかった。
 本当は、見つめなおすべきなのだと彼は気づいてもいる。本当にこのままでいいのか。幸せを目指しながら、消耗し続けている自分について。しかし何もかもを捨て去り、ゼロからやり直す夢を見ることがあっても、それを忘れようとする。それが自分の幸せなのかどうかはともかく、彼はもう戻れない。もう流行らないその理想をおいかけながら、彼は生きていこうとしている。その姿を引き留めることは誰にもできない。どこに救いがあるのか、彼を見守る誰も知らなかったからだ。