せみ

 もうすぐセミの季節になるだろう。
 東京にもたくさんの木がある。木の下にあつまるものもいれば、そうでないものもいる。しかしセミは木の樹液を吸って、その短い最後の成虫の時期、繁殖期を終える。
 大きな木、小さな木。


 きっと大きな木の下には、多くの新しい仲間がまっている。そんな風に思っている一匹のセミがいた。遠くの方から彼を手招くように仲間たちの歌声が聞こえる。彼はそちらにちかづいていこうとする。けれど、小さな小屋の壁にへばりついてためらう。仲間たちはすぐそこにいる。もう木はすぐそこにある。なにもかも思い通りだ、と歌う声がきこえる。樹液も、出会いも、なにもかもが叶いそうに思える。


 けれど、彼は、結局はひきかえしてくる。長い旅をしてきた。彼はもういろいろな木を旅してきていた。そのどこにおいても彼は、主役にはなれなかった。どんな仲間たちとも仲良くなれないのだった。それを思い出して彼はひきかえす。なにもない、電柱にとまる。そしてそこでひとりぼっちで泣いていた。


 仲間たちはやってきて、彼のそばをとおりすぎて木のほうへいった。
 どれだけ泣いてもそれは誰にも届かない。彼ははじめから泣いてなどいなかった。うまく鳴くことが、できなかった。