日本ダービー

 日本ダービーにいってきた。
 新宿駅の山手線通路に日本ダービーの広告がびっしりでており、気になったので彼女さんと一緒に行ってみた。以前、ひとりで東京競馬場にいってきたことがある。そのときはなにも知らず、手ぶらでいって、馬券を買うためのマークシートの書き方どころか、マークするための鉛筆ももたずにただレースを観戦し馬をながめて帰ってきたのだが、記憶のなかで歓声のすごさが印象に残っていた。そのすさまじい歓声の轟音を彼女さんにも体験してみてほしいと思った。


 競馬にいくなら、100円でいいから賭けるのがいい。そうしたほうが、ゴールに向かって競争する馬たちを血走った眼で楽しめる。だが、どの馬に賭けるのがいいだろう。ダビスタにはまっていた友人らとは違い私は競馬にくわしくないので、ネットで調べてみた。人気なのは、ダノンプレミアムという馬だった。ディープインパクトの血統らしい。買い方はどうすればいいか。以前、馬券の種類に混乱してしまったのを思いだし、複勝やら三連単やらをググって調べてみた。


 朝、朝食を食べて向かう途中、コンビニで競馬新聞を二種類ほど買う。現場では、ボールペンを耳にはさんで競馬新聞をにらむなり、新聞のデータ欄を赤ペンでぐるぐる囲んだりする人が多い。その熱狂に混じるために、形から入ることにした。


 さて、ついてみると東京競馬場は記憶の中のそれをはるかに圧倒するほどの混雑ぶりだった。大にぎわいというやつである。だが写メをとるのに夢中になり、そしてツイッターに画像をあげながら歩いたためほとんど上の空になってしまう。会場内を散策し、ファーストキッチンでバーガーとポテトとアイスティーのセットを二つ買い、他のお客さんたちがそうしているように、地べたに座り込んで食った。日本ダービーというのは、競馬というよりもひとつのお祭りのようなものだという印象を受けた。周囲には若い男女がおおい。競馬というもののイメージがかつての印象と違ってくる。ギャルやらチャラ男やらが往年の予想屋たちの間にちりばめられている人混みのなかで、芸能人が何かの撮影をする。


 私は複勝で競馬新聞で絶賛されている馬をなんとおりかマークした。彼女は三連単を3通りマークしていた。だが私の複勝のマークの仕方がまちがっているのか、券売機で改めて入力をもとめられる。だが後ろが並んでいる。ダノンプレミアムと、なにか。ほかの番号は忘れたので、私の掛け金はダノンプレミアムとなにかだけに掛けられる。


 出走前に、馬がお客さんの前を練り歩くためのスペースがある。ぼくらはそこでダノンプレミアムを目の当たりにした。ダノンはどこか様子がおかしかった。鶏のように頭を上下させ、挙動がおちつかない。これはダノンはだめかもしれない、と思う。そういえば直前のレースをパスしたような記事をみたことも。ただどうでもよかった。一発当てるためにきたわけではないのだ。


 コースは立ち見となり、我々は少しでもゴールに近い場所をもとめてさ迷い歩いた。そしてそこで出走を待った。さだまさしさんによる国歌。日本ダービーの歴史映像が巨大ビューイングに流れる。そして、怒声のような大勢の声。なにもみえない。なにもみえないが、すべてがいつのまにかはじまった。そして、私はダノンの番号が先頭集団にいないのを見ながら、焦りを感じた。天変地異をおもわせる大勢の歓声が360度を囲む。細かく、密度の高い11万人の叫び。そしてゴール。彼女が1位にくると予想したワグネリアンが1位。だが、ダノンは5位にもいない。我々は放心した。表彰式が行われる。だが遠すぎてなにがおきているのかわからない。ただただとてつもないエネルギー。大勢の感情の爆発のなかで我々は空っぽに近い心境を経験したのだ。それは、どこか諦念にもにた不思議な感覚を去来させる出来事であった。