はじまりの終わり

 朽ち果てて積み重なった瓦礫の下の暗闇の静寂の奥のようにそこは思われた。だが実際は忘れ去られた古城の玉座の間であった。そこに一人の男が、老いた男が、椅子に埋もれるように、項垂れるように、あるいはほとんど死んだように佇んでいる。それは辺りを息苦しく取り囲む瓦礫の壁と同じくらい朽ち果てたその王座とほとんど同化して、まるでミイラのようにすら見える。昨日今日からそうしているのではないことは、一目でわかる。


 城は戦によって十数年も前に、廃墟となっていた。呪われたその城に、死んだ筈の王子は帰ってきた。それから王子はずっと、王座に身をおいているという。共に旅してきた仲間たちは、口を固く結んでそのことを語らず、そえぞれの生業を見つけやがて去っていった。それは哀しい出来事のように、語られていた。やがて継ぐはずだった王家が失われた今、王子は瓦礫の王座にしがみついて廃墟に引きこもっているのだと、伝えられていた。


 そうして数百年の月日が流れた。かつてオブシダンの城跡があったとされる場所は森の中に忘れ去られ、城塞は大自然の中に埋もれて忘れ去られていた。


「おーい、サンジャヤ、ベルギース!」
 森の中に、人の声が響いて来る。探検家のようなものたちが、しばしばこの鬱蒼とした森の奥に眠る忘れ去られた廃墟をもとめてやってくることがあるようだ。だが、現れた男の風采は、それとは異なっていた。白い軍馬に跨がり、肩には猟銃のようなものをかけている。彼は同行した仲間とはぐれて、さ迷いこんだように見えた。汗でてかった表情は、切実な緊張を含んでいる。彼はしばらく馬を止め、返事を待っている。物音に耳をすましている。だが、野鳥のさえずり以外はなにも聞こえない。空っぽになった水筒を舐め、来た方向を振り替えるが、そこにも道らしき道はなかった。急に馬が猛る。「おっおい」と手綱を引くが、手におえない。馬は木の根におおわれた岩盤のようなものの前で急にたちどまり、鼻面を岩と岩の間にあるすきまに突っ込んでいる。
「いったいどうしたんだ、シルヴィア・・・・・・。そんなところに、なにがある?」
 彼は馬を降りた。猟銃の先でちいさな石ころを除け、しげった葉を取り除くと、大きな岩が現れた。よくみるとなにか、得たいの知れぬ文字のようなものがびっしりと表面をおおい尽くしている。なんだこれは、自然にできたものなんかじゃ、ありえない。これは一体、何だ・・・・・・。岩は何かをおおっている。後ろに隙間があるのがわかる。岩をどければ、裏側にあるなにかが見えそうだ。だが、自分は仲間とはぐれてしまった。誰かの助けがなければ、森から生きて帰れないかもしれない。こんなことをやっている場合なのだろうか。しかし馬は、言うことを聞かなくなってしまった。この奥のなにかが気になっているようだ。


 遠くから何かの足音が聞こえてくる。ハッとして動きを止め、耳をすませた。仲間だろうか? それとも、なにか肉食獣の類いだろうか。猟銃をそっと確かめる。だがかまえようとすると気づかれるかもしれない。緊張感。一瞬の隙をみて、どのように動いたらいいのかを考える。とそのとき、突然、音が消えた。同時にいつのまにか背後から押さえつけられていた。みたこともない服装をした、精悍な三人の男たちに、こちらの装備を調べられた。ルンネン、シュトリッツィヒ、というようなよくわからぬ言葉を投げ掛けられ、首を振って、わからないと答えた。